乳がんとはどんな病気?

乳房には母乳を作る小葉という部分と、母乳を乳頭に運ぶ乳管から成る乳腺組織が張り巡らされています。この乳腺組織に発生した悪性腫瘍が乳がんです。乳腺組織に発生したがん細胞は、女性ホルモンの影響を受けながら増殖し、広がり、リンパ管や血管を介して他の部分にも転移していきます。乳がんが直径1cmほどの大きさになるには、およそ5~8年かかります。

乳がんになりやすい人

乳がんの発生・増殖には、エストロゲンという女性ホルモンが重要な働きをしています。乳がんの症例では、体内のエストロゲンレベルの影響が要因とされています。エストロゲンレベルが高い人の他、経口避妊薬の使用や閉経後のホルモン補充療法などの体外ホルモンの要因も乳がんのリスクが高くなるという根拠であると考えられています。

生理・生殖要因としては

  1. 初経年齢が早い
  2. 閉経年齢が遅い
  3. 出産歴がない
  4. 初産年齢が遅い
  5. 授乳歴がないこと

などが要因とされて考えられています。また、閉経後の肥満も1つの要因です。

生活習慣要因としては、飲酒習慣は大きな要因です。その他、一親等の乳がん家族歴、良性乳腺疾患の既往、マンモグラフィ上の高密度所見、電離放射線曝露も、乳がんの要因とされています。

乳がんの症状

■乳房のしこり

乳がんは5mmぐらいから1cmぐらいの大きさになると、自分で注意深く触るとわかるしこりになります。しかし、しこりがあるからといって全てが乳がんであるというわけではありません。

■乳房のえくぼなど皮膚の変化

乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、えくぼのようなくぼみができたり、皮膚が赤くはれたりします。乳房のしこりが明らかではなく、乳房表面の皮膚がオレンジの皮のように赤くなり、痛みや熱感を伴う場合、「炎症性乳がん」と呼びます。炎症性乳がんがこのような外観を呈するのは、乳がん細胞が皮膚のリンパ管の中に詰まっているためであり、それだけ炎症性乳がんは全身的な転移をきたしやすい病態です。

■乳房の近傍のリンパ節の腫れ

乳がんは乳房の近傍にあるリンパ節、すなわちわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)、胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)や鎖骨の上下のリンパ節(鎖骨上リンパ節、鎖骨下リンパ節)に転移をきたしやすく、これらのリンパ節を「領域リンパ節」と呼びます。領域リンパ節が大きくなってくるとリンパ液の流れがせき止められて腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕のしびれをきたしたりすることがあります。

■遠隔転移の症状

転移した臓器によって症状は違いますし、症状が全くないこともあります。領域リンパ節以外のリンパ節が腫れている場合は、遠隔リンパ節転移といい、他臓器への転移と同様に扱われます。腰、背中、肩の痛みなどが持続する場合は骨転移が疑われ、荷重がかかる部位にできた場合には骨折を起こす危険もあります。(病的骨折)肺転移の場合は咳が出たり、息が苦しくなることがあります。肝臓の転移は症状が出にくいですが、肝臓が大きくなると腹部が張ったり、食欲がなくなることもあり、痛みや黄疸が出ることもあります。

■注意する症状

  • 乳房にしこりがある。
  • 乳房の皮膚にかゆみやタダレがある。
  • 血栓乳頭分泌がある。
  • 乳房の皮膚にくぼみがある
  • 乳房に痛みや張るような自覚がある。

※ 上記の症状がある方は担当医師にご相談ください。

■良性のしこりと悪性のしこりの見分け方

  • 良性は消しゴムのような硬さ、悪性は石のような硬さ。
  • 良性は境界がはっきりしていてくりくりした感じで、悪性は境界があいまい。
  • 良性は指で押すと逃げるが、悪性は指で押しても動かない。

※ 見分け方は参考です。少しでも違和感や上記の症状がある方は専門の医師の診断を受けた方がより確実です。

乳がんの診断方法

■マンモグラフィー(X線撮影)

マンモグラフィーは乳房を装置に挟んで圧迫しX線撮影する検査です。触診では見つからないような小さながんが見つかることがあります。

■マンモトーム生検

しこりが見つかった場合、しこりに細い注射針を刺して細胞を吸いとって調べる「穿刺吸引細胞診」により、80~90%の場合でがんかどうかの診断が確定します。痛みもなく、傷跡も極小さく乳がんの最先端治療です。

■エラストグラフィ超音波装置(乳腺エコー)

組織の硬さをカラーで表示するリアルタイム画像化技術の超音波装置の検査です。良性病変に比べてがん組織が”より硬い”ことを利用してがんを検出します。エラストグラフィを使用することで、超音波による乳がん検診の精度が大幅に向上することが、臨床研究により実証され始めました。

■遠隔転移の検査

乳がんが転移しやすい遠隔臓器として肺、肝臓、骨、リンパ節などがあります。遠隔転移があるかどうかの診断のためには、胸部X線撮影、肝臓のCTや超音波検査などが行われます。

乳がんの病期(ステージ)

乳がんという診断がついた場合、がんが乳腺の中でどの程度広がっているか、遠隔臓器に転移しているかについての検査が行われます。乳がんの広がり、すなわち乳房のしこりの大きさ、乳腺の領域にあるリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無によって大きく5段階の臨床病期(ステージ)に分類され、この臨床病期に応じて治療法が変わってきます。

0期

乳がんが発生した乳腺の中にとどまっているもので、極めて早期の乳がんです。これを「非浸潤がん」といいます。

  • 乳房温存手術+放射線療法
  • 術後ホルモン療法

Ⅰ期

しこりの大きさが2cm(1円玉の大きさ)以下で、わきの下のリンパ節には転移していない、つまり乳房の外に拡がっていないと思われる段階です。

  • 乳房温存手術+放射線療法
  • 術後ホルモン療法

Ⅱ期

Ⅱa期とⅡb期に分けられます。
しこりの大きさによって術式を選択します。しこりが大きい場合には先に抗がん剤治療を行い、手術をその後に行う「術前化学療法」をとるケースもあります。

【Ⅱa期】しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節への転移がある場合、またはしこりの大きさが2~5cmでわきの下のリンパ節への転移がない場合。
【Ⅱb期】しこりの大きさが2~5cmでわきの下のリンパ節への転移がある場合。

Ⅲ期

「局所進行乳がん」と呼ばれ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅲc期に分けられます。
Ⅲb~Ⅲcのステージは原則として手術ができない乳がんです。薬物療法、放射線療法を行ってしこりが小さくなり、手術が可能になれば手術を行う場合もあります。

【Ⅲa期】しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、しかもリンパ節がお互いがっちりと癒着していたり周辺の組織に固定している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節(内胸リンパ節)がはれている場合。あるいはしこりの大きさが5cm以上でわきの下あるいは胸骨の内側のリンパ節への転移がある場合
【Ⅲb期】しこりの大きさやわきの下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁にがっちりと固定しているか、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態です。炎症性乳がんもこの病期に含まれます。
【Ⅲc期】しこりの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある場合。あるいは鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある場合。

Ⅳ期

遠隔臓器に転移している場合です。乳がんの転移しやすい臓器は骨、肺、肝臓、脳などです。

  • 化学療法
  • ホルモン療法
  • 放射線療法

再発乳がん

乳房のしこりに対する初期治療を行った後、乳がんが再び出てくることを「再発」といいます。通常は他の臓器に出てくること(「転移」と呼びます)を指し、IV期の乳がんとあわせて「転移性乳がん」と呼びます。
手術をした乳房の領域に出てくることは「局所・領域再発」と呼んで区別します。

三井病院 形成外科との連携

川越三井病院では乳腺外科医と形成外科医が協力のもと乳房再建術を行っています。
乳房再建は必ずしも行わなければならない治療ではありません。
ただ、乳房を全摘された患者さんの中には、温泉に行きづらくなった、下着に困る、などと悩まれている方もいらっしゃいます。
乳房を再建することで、少しでも悩みが軽減できるかもしれません。
まずはお気軽にご相談ください。患者さま、お一人おひとりに適したタイミング、術式をご提案いたします。
じっくり考えた上で、再建する・しないを検討していきましょう。(ときには勢いも重要です。)